2013年頃に、仕事で訪れたフィリピンでの体験がこの事業のきっかけとなっています。
2000年代前半、私はスキューバーダイビングのインストラクターを目指して各地に潜りに行った地域の一つとしてフィリピンがありました。ソーダー色の海の青さに感動しましたが、当時の都市部はまだ荒廃して、物乞い的な人が沢山いるような環境でした。しかし、久しぶりに訪れたフィリピンは大きく発展をしておりました。空港周辺は綺麗になっており、マカティなどのマニラ首都圏は、一見、東京とさほど変わらず、その発展ぶりと活気に驚嘆しました。
フィリピンは、年率6−7%台で経済が発展する一方、庶民の移動の足としては、今なお、旧態依然としたジープニーやトライシクルといった乗り物が移動の主流となっており、日本のような定時制のある公共交通と呼べるようなものは実質的にないのが現状です。何故なら、これらのドライバーは車両をオーナーからレンタルして個々が好き勝手に運行するため、ラッシュ時にはこれらの車が殺到してかえって渋滞し、オフピークにはドライバーは昼寝をしている、というような状況が起こるからです。
日本では当たり前にある、定時制のある少し待てばバスや電車が来る、という規律ある便利な公共交通を、現地の環境に合わせて構築をし、提供することによって、その地域の人々の生活向上のお役に立てると考えております。当社のサービスを通じて、日本の技術の普及・展開することにも繋がりますので、日本への裨益にもつながります。
現状はカオスな状況でありつつも、交通に規律を持たせようとする現地の動向や、世の中のIOT化やデジタル化の流れ、当時働いていたソフトバンクやNEDOからの支援も受けて完遂した実証事業を通して、規律ある交通システム展開の意義と実現性への思いはより具体的になりました。
ASEANという括りで見ても、人口7億人弱の市場であり、程度の差はあれ、同様の交通課題を抱えており、この地域においても広くお役に立つことが可能です。当社は、日本とASEANを結ぶ活動を通じて、多くの人に役に立つ存在でありたいと考えております。昨今、広がりを見せるスマートシティの都市内での交通としてもお役に立てると確信しておりますし、各地で培った成果を日本に持ち込むようなことも手がけて行きたいと考えております。
また、Zenmovの事業を通じて、やる気溢れる日本のビジネスマンやエンジニアの方々に、チャレンジする場、新たな経験を積む場としての役割も担えたらうれしいと考えています。ASEANの国々は元気です。日本では感じることのできない異質の活力を感じ、化学反応が起こるかもしれません。
こちらに関しては一つ、付け加えておきたいことがあります。私は、BOPと呼ばれる人たちの地域にもしばしば出入りをしています。BOPとは、Bottom of the Economic Phyramidの略で、年間所得が3000ドル未満の人たちのことを、そのように呼ぶのだそうです。さぞかし酷い生活をしているのかと思いきや、そこで生活している人々の中には、焼き鳥のようなものを道端で焼いて良い匂いを漂わせて美味しそうに食べていたり、バレーボールを仲間としてワイワイ過ごしたり、周囲の人たちと笑いながら楽しそうに生活をしている姿を垣間見て、幸せに対する価値観にも多様性があることに気づきました。ビジネスとは少し離れますが、Zenmovはこうした日本にいると感じない新たな観点についても、気づきの場を提供できるような存在でありたいと思っています。
代表取締役 田中 清生